志摩子さん...
「あら、祐巳さん。これから薔薇の館へ？」
下駄箱の並ぶ校舎の入り口で呼び止めた志摩子さんは、まさかこんな時間にこんなところで出会うとは思っていなかったわ、という顔をしている。
そうじゃないの。
それより、志摩子さん今日これから暇？
「ごめんなさい、今から環境委員会の打ち合わせがあるの」
え、今から？
もう16時を回っているくらいなのに、この学校の環境委員会って人使いが荒すぎないだろうか。
特に、志摩子さんは朝早くから花壇の手入れをしたりもしている訳だし。
「それじゃ、私行くわね」
そそくさとこの場を去ろうとする志摩子さんの背後へと駆け寄り、その肩にがっしと手をかけ制止する。
「ひっ...ゆ、祐巳さんどうしたの」
予期せぬリアクションだったのだろう。おそるおそる、と言った調子でこちらを振り返る志摩子さんの顔は緊張して強ばっていた。
耳かきして！
「え！？あぁ、耳かきね」
お姉さまの茶々が入って、雪さんに耳かきしてもらうという目論みが崩れてしまった。
私が大の耳かき好きだって事知っているくせに、ウットリとした目付きで「雪の耳かきは最高なのよ」なんて話ばかりして聞かせるくせに、お姉さまったら雪さんのことを独り占めして！
あぁ、雪さん...この熱きリビドーを発散するには、リリアンでも一二を争う癒し系である志摩子さんの耳かきを、じっくりと堪能する以外に無いんだから。
と考えて、志摩子さんを待ち伏せしていたのだ。
「ごめんなさい、私本当に今日の委員会が外せないから」
乃梨子ちゃん...
「え、乃梨子がどうかして？」
さすが、乃梨子って単語への食いつきは良いんだ。
わたしは良心の呵責に苛まれながらも続ける。
乃梨子ちゃんがどうなってもいいの？
「どうしてそこで乃梨子が出てくるの？祐巳さんが何を言っているのか分からないわ」
祐期にね、乃梨子ちゃんのこと花寺の男子数人に可愛がってもらうようにお願いしてあるの。
いくら志摩子さんでも、わたしの言っている事の意味くらいは分かるでしょう？
ああいう気の強い子が快楽に溺れ、柔順になって行く様に至上の喜びを感じるのよ、男ってね。
「ゆ、祐巳さん！冗談はおやめになって」
冗談だと思う？
でも、後で事の顛末を知ったら後悔することになると思うよ。
「だって、そんなことしたら花寺の方達だってただでは済まないわ」
そうね。でも、未成年ならどんな大罪を犯したところでどうってことないのも事実だよ。この国ではね。
やるなら今しかないって事、わかるでしょ？
「そ、そんな...」
志摩子さんは、血の気の引いた蒼白な顔を両手で覆ったまま、がっくりと両膝を地に落とした。
でも、今ならまだ止められる。志摩子さんさえその気になってくれれば、間に合うんだよ。
「一体...どうしてしまったというの、祐巳...さん」
私はね...耳かきのためなら鬼にでもなるの。
なんて、実は祐期が部屋に居ない間に盗み読みしたエロコミックを元に、即興で作り上げた三文シナリオだったけど。
志摩子さんには効果絶大だったみたい。
「わ、分かったわ。耳かきでも何でもするから、乃梨子には何もしないで！」
本当に人を疑うということを知らない彼女の横顔を見、沸き上がる罪悪感...
でももう後には引けない、背に腹は代えられないんだ。
ごめんね志摩子さん。
せめてもの償いとして、心行くまで耳かきを堪能させてもらうからね。
とその時、背後に何やら人の近づく気配。
「おいたはそれくらいにして下さい、祐巳さん」
燐とした声に振り向くと、そこには現れたのは忘れもしないメイド服の...
ゆ、雪さん！？なぜここに？
「志摩子さんと言いましたか、乃梨子さんは無事です」
「えっ...よかった」
実は意外とふくよかな胸に手を当て、ほぅと安堵の表情を浮かべる志摩子さん。
「正確には、全ては耳かきして欲しさからきた祐巳さんの虚言だったんです」
「そうなの？ひどいわ祐巳さんたら」
ううむ、確かに悪いのはウソをついて騙そうとした私だけど、こうも簡単に雪さんの言葉になびかれてしまうのでは、友人として流石に面白くない。
ちょ、ちょっと待って志摩子さん、そんな簡単に見も知らぬ人の言葉を信じるって言うの！？
「えぇ、信じるわ。この方の目、目を見れば分かるもの」
「...ありがとうございます」
見つめ合う二人は...なにやら百合っぽい...志摩子さんて雰囲気的には受けっぽいけど、攻めでも面白そうだよね。
とかそういう話はこの際置いておくとして、どうやら完敗みたいだ。
さすが雪さん、こんなにも簡単に志摩子さんの心を掌握してしまうなんて、お姉さまの絶大なる信頼を取り付けただけのことはあるってことか。
ごめんね、志摩子さん。私今日はどうしても耳かきをして欲しかったんだ。
「雪からも謝ります、責任の一端は雪にもあるんです」
一番の戦犯はお姉さまなんだけど、まぁそれは言わないでおこう。
「どういうことなのか聞かせて。祐巳さんの耳かき好きは承知しているけれど、ここまでする理由が分からないわ」
私は、事の顛末についてなるべく同情を誘うように、話の端々を誇張して聞かせた。
なのに、志摩子さんときたら。
「そう、それは災難だったわね」
の一言で済ましちゃうんだから。
きっとその台詞の先には"何にしても乃梨子が無事でよかったわ"と続くんだろう。
あまりに軽くスルーされたので、その腹いせとばかりに雪さんに八つ当たり。
そういえば、雪さんは私の邪魔をするためだけにわざわざ追いかけてきたんですか。
なんて、ちょっとばかり厭味っぽく言ってみたりして。
「いえ、実は耳かきをして差し上げようと思ってきました」
！
今なんと！
「二度は申しませんよ」
にこにこ。悪戯っぽく笑う雪さんは、無邪気な子供みたいな様相で随分と幼く見えた。
会ったばかりであんなことがあったから深く考えなかったけど、実は私とそれほど齢が変わらないのかも。
それでいてメイドをしているなんて、何か色々と事情があるのかな...
でもま、今は雪さんの事情よりも耳かきが優先！
分かりました。聞き逃したりなんてしてませんから、耳かきして下さい！
とにかく、雪さんが耳かきをしてくれると言っているんだから、気が変わらないうちにしてもらわなきゃ。
「あの...つまり祐巳さん達はこれから耳かきをしに行くということ？」
いつもの調子でおっとりと問う志摩子さんに、うん、そうだよと軽く答える。
正確に言うと、私が雪さんに耳かきしてもらうんだけどね。
「それなら、私も横で見学していていいかしら」
は？見学！？
「それは良いですけど、何故です？」
雪さんは、随分あっさりとOKの返事。
でも、耳かきしているところを見学されるなんて、考えて見たらかなり変な事だと思うんだけど。
「その...祐巳さんがそこまで入れ込む耳かきなら、参考にさせて頂こうと思って。乃梨子にしてあげるとき、少しでも気持ち良くなってもらいたいから」
志摩子さんたら、自分の台詞に頬を赤らめながらうつむいちゃったよ。
ああもぅ！だだ甘ですな白薔薇姉妹は！
今の言い草だと、普段から乃梨子ちゃんに耳かきしてあげてるみたいだし。んもぅ、どうぞお幸せに！！
でも志摩子さん、これから環境委員会の打ち合わせがあるんじゃ？
「今日は欠席にするわ」
もごもごと、だって乃梨子の喜ぶ顔が見たいからとかなんとか。
ごちそうさまです。やっぱり攻め属性なのかも、志摩子さん。
ていうかさ、そんな簡単にキャンセルできるなら、何故わたしのお願いは聞いてくれないの！？
あまりにも乃梨子ちゃんが羨ましくて、思わず声を荒げてしまった。
「だって...祐巳さんしつこいんですもの。いつももうちょっともうちょっとって」
...おっしゃる通りです、はい。
だって志摩子さん、ソフトタッチなのは良いのだけれど、なかなか奥まで入れてくれないんだもの。
「では、どこか耳かきできるところに移動しましょう」
うーん、雪さんは簡単に言うけれど、そういう意味では薔薇の館くらいしかないんだよね。でも、テーブル席だけでゆったりと横になれるスペースが無いし...
そうだ！あそこなら。
畳部屋だし、邪魔者も居なくてこれ以上無いというくらい好条件だ。
「近いんですか、ここから？」
ええ、ついてきて下さい！
ごめんください...小母様は不在なのかな。
二人を連れて来たのは、リリアン学園を出てからバス二駅分ほど歩いた先にある、閑静な住宅街の一角。
仕方ない、おばさまには帰りにご挨拶することにしよう。
自分を納得させ、そのまま門を通り過ぎてさらに庭の奥へ。
「用があるのは、こちらのお家ではないのですか？」
あ、そちらは大家さんのお宅なんです。目的地はそこです。
私の言葉に二人が視線を向けた先、そこには小さな離れがあり、表札には「加東」の文字。
そう、ここは聖さまの友人、加東景さまのお宅。
ごめんください、加東さん。
トントン、とドアをノックすると、程なくしてドアが開き、中から顔を覗かせたのはもちろん加東さんだ。
や、実はひょっこりと聖さまが出てくるんじゃ、という期待...いや恐れもあったんだけど、さすがにそうそう暇という訳ではないみたい。
「あら、誰かと思ったら祐巳さん。と...そちらは？」
「初めまして。小笠原の家でメイドをしております、琴乃宮雪です」
「ごきげんよう、藤堂志摩子と申します」
「琴乃宮さんに藤堂さんね、こちらこそ初めまして。で、今日はどういったご用件？」
実は、ちょっと場所を貸して欲しいなと思いまして。
「場所を？まぁ、立ち話も何だしあがって」
では、遠慮なくお邪魔します。
勝手知ったる何とやらで、既に半脱ぎしていた靴を玄関に脱ぎ揃えると、加東さんを差し置いて奥の居間へ。
「それにしても、小笠原さんのところは本当になんでもありなのね。そんな冗談のような格好をしたメイドさんがいるなんて」
「あ、この服装はあくまでも雪の趣味ですので」
なんて会話が、後ろからは漏れ聞こえてくる。
あのメイド服って、てっきりお姉さまの趣味のものを押し付けられているのかと思っていたけど、雪さんの趣味だったんだ。
うーん、色々と謎の多い人だなぁ。
それはまぁ置いておいて、準備準備。
とりあえずは、部屋の真ん中に置いてあるテーブルの周りに置かれた座布団を移動させ、３枚ほど縦に並べて横になれる場所を確保。
枕は...ひざ枕してもらうから必要なし！
んじゃ、後は制服を...っと。
「え！あ...の、どうしたの祐巳さん？」
加東さんが驚いているのは、言うまでもなく私が制服を脱いでいる最中だったから。
お気になさらず。制服がしわになるので脱いでいるだけですので。
それより、雪さんはこちらへ。
「どうやら、ひざまくらをしろということのようですね」
さすが雪さん、察しがいいです！
そういうことなので、早くスタンバイしてください。
雪さんは、縦に並べられた一番端の座布団に移動し、並べられた座布団の側、つまりわたしが横になる方向に身体を向けて正座した。
横は向かないんですか。
「この位置の方が見やすいんです」
どうやら、ひざ枕をした時に手元が見やすいようにという配慮だったようだ。
雪さんのその言葉に、ますます高まる期待。どうしよ、心臓がドキドキしてきちゃった。
そうこうしているうちに制服を脱ぎ終えたので、座布団の上に横になり雪さんのひざの上に頭をのせて準備完了。
たっぷりとした弾力に支えられた頭は、ちょっとした無重力体験だし、サラサラしながらもしっとりとした肌触りのメイド服越し、頬に伝わる雪さんのほのかな体温がなんとも心地よい。
あぁ、なんだか癖になりそう。夢ならこのまま覚めないで...
「では、始めますよ」
ひざ枕されていただけで遠く遊離しかけていた意識は、雪さんの声で現実に引き戻された。
そうそう、お楽しみはこれからなんだから！
そして家主の加東さんはというと、目の前で起きている行為が一体何であるのか、理解出来ぬまま棒立ちしている様子。
「あの、お座りになってお待ち下さい。すぐ終わりますから」
ダメです！じっくりしっかりやってください！
折角のこの機会をおざなりに済まされてはたまらないので、一応クギを刺しておく。
「あ、あぁ...ごめんなさい、今お茶を用意するから...って、そういう雰囲気でも無いわね」
現実に戻った加東さんは、それでも相当混乱しているようだ。
おかまいなく加東さん、今日は耳かきをしてもらいに来ただけですので。
「え...本当にそういうことなのね」
加東さんは合点がいったという風にうなずき、力が抜けたように志摩子さんの横にぺたりと座りこんだ。
「ちょっと見せてもらっていていい？」
「雪はもちろん構いません...けど」
ちらりと視線を落として私の顔を見やる雪さんは、こちらの判断を求めているみたいだ。
あ、それはどうぞご自由に。
もうこうなったら、ギャラリーが一人増えようが関係無いというか。
でも、志摩子さんには乃梨子ちゃんというお相手がいるから良いとして、加東さんが見学する目的とは一体...まさか、聖さま！
...ま、プライベートな話だし、二人の関係について詮索するのはやめておこう。
んー、でも気になるなぁ、加東さんも聖さまにひざ枕とかしてあげるんだろうか。加東さんなら、攻めも受けも器用にこなしそうではあるけど。
いやいや、とにかく今は意識を耳に集中させ、来るべき快楽に身を任せる準備っと。
あぁっ、思わず口元が緩んで笑みが浮かんじゃう。
「では、いきますね」
雪さんはどこからか耳かきを取り出すと、まずは左手の親指と人差し指で挟み込んだ耳たぶをクリクリとマッサージしながら、耳の穴の回りの窪みをカリカリと掻き始めた。
ヒンヤリとした感触から、それが金属製であると分かる。でも、それにしては肌への当たりが柔らかくてまろやかだ。
材質は何なんだろう。
カリカリ...カリカリ...
普通なら、耳の穴の外って掻いても気持ち良く無いんだけど、マッサージと耳かきを併用する雪さんの指ワザのお陰なのか、ジーンと耳の付け根が暖かくなってきた。
そのせいか、耳の穴の中に段々と痒みが。
モミモミ...カリカリ...
あ、雪さんそろそろ中の方も...
じわじわと痒みは穴全体へと広がり、我慢できなくなってきたので、頭はピタリと制止させたまま、下半身だけをもじもじと揺らす高等動作で抗議。
「もう、せっかちさんですね。何事も順番が肝心ですよ」
うーん、雪さんて甘やかし口調が上手いなぁ。
お姉さまなんてああ見えて愛情に飢えているところがあるから、きっとイチコロだろう。
「一通り穴の回りの汚れも掻き落としましたし、では期待にお応えして」
穴の入り口付近に、耳かきのさじが入ってくる気配。
そのまま意識を集中させていると、スッスッと動く耳かきに合わせてペリペリと耳あかが剥がれる感触と一緒に、からまった産毛が抜ける刺激がツンッと広がる。
さじは、耳あかを掻きながら、少しづつ少しづつ奥へ。
カリカリ...コリコリ...カリ...
カリカリカリ...と穴の壁を軽く掻き上げながらぐるりと一周すると、さっきまでの我慢できないような痒みは、返すさざ波のようにスーッとひいていった。
そうそう、こうやって痒みがぱーっと掻き消されていくってのが、耳かきの醍醐味なんだよね。
実際に頭を動かす事は出来ないので、うんうんと心の中で相槌を打つ。
ひとしきり耳アカを剥がし終えると、今度は浮いた隙間にさじの先端を滑り込ませ、少しずつ剥ぎ取っていく。
薄く重なるように張り付いていた耳アカの表面が剥がれ、浮きあがって動く度、産毛をカサカサと刺激するのがなんともこそばゆい。
スッ、スッ...カリッ、カリッ...ペリッ
なんとも丁寧な仕事っぷりで、感心してしまう。
スッ...カリ、カリ、カリ...メリッ...ペリッ
あぁ、この刺激、気持ちいいなぁ...
その時、耳かきの先がくねった外耳道の裏側の窪みに触れた。
あっ、そこ！
「ここがイイんですよね？随分と掻かれた跡がありますよ」
丁度、この窪みは耳アカの溜まり易い部分なのだけれど、自分ではなかなか思うように掻けなくて、ついつい力が入ってしまうのだ。
穴の外から覗いても死角となるので、他人でもここをちゃんと掻ける人はいない。
だけど、雪さんが操る耳かきはまるで意志を持った生き物のようにピンポイントでツボを探り当て、掻いた。
サクッ...スッ...カリカリ...
パリパリ...メリッ...カリカリ...
溜まった耳アカにさじの先をめり込ませ、小刻みに掻き出す。
掻き出す...耳かきが掻き出す度、さっきまで後頭部から首筋を支配していた快感の波が溢れ出して、今は背筋を這いずり回っている。
そして耳かきはさらに深みへ。
先程までとは違う感覚、雪さんの操る耳かきは直接内耳に触れてはいないのか、不用意に掻かれた時に感じる痛みもない。
でも確かに掻き上げられている、快感だけがそこに在るのを感じた。
なんだろう、この感覚って。
まるで鼓膜の回りを、お父さんが部屋の調度品を磨く時に使う、ふかふかとした上質のセーム革でキュッと丁寧に拭き上げられているような。
キュッ...キュッ...雪さんが耳かきを動かす度に沸き上がる、耳の付け根を震源地とした痺れるような快感は、いよいよ勢いを増した。
快感は背骨に沿って腰から下半身へと、さざめき広がりながら、通り道にあるツボを刺激していく。
点在するツボが、同時にキューッと押し込まれているような不思議な刺激に襲われ、身体に力が入らない。
目を閉じている筈なのに、白に染まっていく視界。
あーーーーー ..........ツッ！！
ガバッ、と。
その時、快感に耐えられなくなったわたしは、無意識のうちに跳ね起きていた。
何が起きたのか。
思わず視線を向けた先の雪さんは、耳かきを右手に持ちながらにこにこと満足そうにしている。
い、今の感覚って一体.....
「いかがでしたか？」
いかがもなにも、何だか凄くて、壊れてしまいそうで...怖かったです...
「人間の感覚には、許容できるレベルというものがあります。あまりにも過大な未知の入力に対しては、脳が反応できなくなってしまうんです」
それは、なんとなく分かる気がする。痛みとかも度が過ぎると感じなくなるというし。
「今、祐巳さんはかつてない快感を味わいました。だけど残念ながら、祐巳さんはまだその...それに耐えられる免疫がなかったようですね」
耐えられる...免疫？
「快感に身を任せられず、逃げてしまわれました」
雪さんの言っていることは、おぼろげながらだけど分かった。
確かにわたしはその...そういう経験は皆無だから。
「まだ反対側の耳が残っていますけれど？」という雪さんの誘いにものる気は起きず、耳かきを断ったのって初めての事かもしれない。
でも、今またあんな快感に襲われたら、今度こそどうなるか...それを考えると怖い。
雪さんは、そうですかと言ってにっこりと微笑んだ。
や、ほんと。暫く耳かきはいいかな...
帰る道すがら、志摩子さんは針飛びしているレコード盤のように「あんなことを乃梨子にしたら...でも、ううん...」なんて呟きながら、顔色を赤く染めたり青く醒めさせたりと忙しい。雪さんの手業を目の当たりに見て、内なる攻め属性が覚醒してしまったのかも。
そしてわたしはというと、お姉さまの事を考えていた。
毎回雪さんからあんな攻めを受けているんだろうか...それともお姉さまに対しては、雪さんは手加減しているのか。
それとなくお姉さまの話をふってみても、雪さんはニコニコと話をはぐらかすし。きっと分かっていてとぼけているんだろうけど。
だからといって、まさか「お姉さまの事、イかせたりしてるんですか！？」なんて聞ける訳もないし。ハッキリと答えられても困るし...
あぁ、明日お姉さまに会ったら、ちゃんと顔を見て話が出来るかなぁ。なんだかあらぬ妄想に支配されそうで、不安...
fin.